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2010年7月5日

「メジャーなんだけどメジャーの終了であり、新しい夜明けのスタート」
DREAMライト級チャンピオン・青木真也インタビュー

7・10『DREAM.15』(さいたまスーパーアリーナ)にて、川尻達也を挑戦者に迎えDREAMライト級王座初防衛戦に臨む同級王者・青木真也にインタビュー。格闘技観、ベルト、そして、川尻達也戦──。決戦前の王者の声を聞け!!

■「僕はやっぱり今、PRIDEが潰れてよかったと思っています」

──次の『DREAM.15』で、PRIDE、『やれんのか!』、DREAMと同じ道を辿ってきた川尻選手とDREAMライト級王座を懸け激突します。ということでまずは、青木選手の格闘技観やプロ興行に対するスタンスというのが、『やれんのか!』以降、どう変わってきたのかをお聞きしたいのですが。
青木 変わってきたというのは、正直あまりないと思います。いつも一緒。青木真也っていうのを語るとき、他の選手と違うように見えるのには理由があるんですよね。それっていうのは、いろんなところでいろんなコメントを出しているから「こいつ嘘つきだな」って思う人もいるだろうし、「言っていること違うだろ。今とあれとで違うだろ」って言われることもよくあるんですけど。でもそれは、僕自身が他のファイターと格段に違うことの証明であり、青木真也っていうファイターは目線が一杯あるってことなんですよ。“選手”青木真也としての目線があるし、“ファン”青木真也としての目線もある。あと、“主催者”青木真也としての目線もある。
──主催者目線というのは?
青木 イベントを作る人たちがどれだけ苦しい思いをしているかとか、そういうところからの視点ですよね。だからこそ今まで踏み出す試合、自分でもビックリするぐらい踏み出させてもらったんですけど、踏み出せた理由というのは“選手”青木真也じゃないですよ、残念ながら。僕はすごく弱い人間ですし、強くないと自分自身思っているんですけど、それなのに踏み出せたというのは、主催者、ファンの部分がわかるからこそ踏み出すことができたと思うんですよね。それがやっと最近わかりました。
──正直、キツイ試合は他の選手以上に多かったと思います。
青木 キツイ試合、シチュエーションっていうのは多かったと思いますね。でも、そこで踏み出せたというのは、ファン、主催者の目線を持たせてくれたPRIDEであり『やれんのか!』というのがすごく僕にとってプラスになっていると思います。僕はやっぱり今、PRIDEが潰れてよかったと思っていますし。
──それはどうしてですか?
青木 それは今、僕が一生懸命やれているから。結局、今どう頑張れるかが大事じゃないですか。で、主催者の視点で見たとき、思っていることってだいたい2年後にくるじゃないですか。「不景気だねぇ」とか、2008年の煽りVで「不景気ヤバイですね」っていうのが僕の中でも印象に残っているんですけど、今、2年後、現にヤバイじゃないですか。吹き荒れる不景気の中、格闘技なんてほんと、そのさいたるもんですよ。で、最近思うんですよね。もしDREAMがなくなったときとか、メジャー格闘技がなくなったとき、どういう感情を抱くのかなって。この野郎と思うのか、悲しむのか、どう思うのかなと思って。でも、青木真也はこの野郎とは思わないですよ。なぜなら僕はメジャーで4年間やらせてもらって、今度で5年目になるんですけど、メジャーに上がらせてもらって、試合をいっぱいさせてもらって、いろいろな経験を積ませてもらって、名前を上げさせてもらって、お金ももらって。だからもし今潰れたとしても、「ありがとう」って言えるんですよね、ガチで。それぐらいやってますよ、一生懸命。
──『やれんのか!』のときは、この先どうなるかっていう不安がありましたよね。
青木 そうですね。でも、『やれんのか!』までは、ぶっちゃけた話、(PRIDEは)なくなったけど大丈夫だっていう思いはどっかにあったし。逆に、正直おいしいなっていう気持ちはありましたよ。僕が背負えるなと思って。
──なるほど。
青木 みんなアメリカだとかザワザワしているけど、なら僕行くよ、みたいな。あっゴメン、みたいな。あそこで一番最初に手を上げたのが、やっぱり今に至ると思うし。
──“DREAMの大黒柱”を宣言しましたよね。
青木 いいほうに転がってるんですよ。でも、最近思うんですよね。今のサッカーじゃないですけど、一つの負けだったり調子悪かったりするといろいろ言われますけど、言われて「クソだなぁ。俺ってウンコだなぁ」って思うときもあって、僕だってずーっと陽気なわけじゃないんで、落ち込むときはあります。でも、やっぱりなんかまだまだ捨てたもんじゃないなって気づくときもありますし。
──どちらかというと、感情の起伏が激しいタイプではありますよね(笑)。
青木 病気ですからね、ある種(笑)。
──試合の前はいつも「これが最後かもしれない」ということをおっしゃいます。
青木 毎回そう思っていますよ。「いつ解放されるんだ」っていう気持ちも正直あるし。それは正直、本当にあります。昔はわかんなかったけど、五味隆典の気持ちだって今ならわかるし。いやぁ、気が狂いそうになりますよ。いつまで経っても解放されないですからね。
──でも、そういうのも全部ひっくるめて、今は楽しいと。
青木 楽しいですよね。やっぱりやりがいもありますからね。

■「楽になんねぇもん、負けたって。かといって、勝ったって楽になんねぇ」

──DREAMライト級のベルトについてお聞きしたいのですが。
青木 某レジェンドに、僕がベルト獲った瞬間に「わぁ~、面倒くさいもん獲っちゃったね」って言われたんですよ(笑)。
──某レジェンド?
青木 桜庭さんに。
──桜庭選手に?
青木 「面倒くさいもん獲っちゃったね〜。こんなの獲らないほうがいいんだよ」ってのを言われたんですけど、本当にその通りで、ベルト獲ると面倒くさいことのほうが多いんですよ。責任ですからね、ある種。
──チャンピオンとしてどんな試合でも絶対に勝たなければいけないというような?
青木 勝たなきゃいけないとかより、そりゃ毎回勝たなきゃいけないんですけど、フットワークが軽くないんですよね。スッて行けない、動けない、試合できない。
──流れとか試合の意味を考えざるを得ない?
青木 そうそうそうそう、そうなんです。だから、ちょっと前にばかばか試合してた頃が一番楽しかったっちゃ、楽しかったですからね。
──まさにそのしんどさを一番表したのが、今年4月のストライクフォース出場ですね。
青木 そうですね。
──その試合後に「開けた負けだ」とおっしゃっていました。
青木 またやんなきゃいけないっていう。でも、開けた負けだけど、開けてない……何だろう? 楽になんねぇもん、負けたって。かといって、勝ったって楽になんねぇし。だからもう、とにかくやり切りたいんすよね。4月はやり切った感じはあるし、また今回、いろいろ修正してやるし、今回もやり切りたいですね。
──まだ先の話ですが、またアメリカに行かなければいけないと思いますか?
青木 うん。……でも、残念ながら、何が何でもとは思ってないっすね、正直。行くんだったら行くし、やるんだったらやるっていう。うん、そうっすね。あんまり、何が何でもっていうのはないですね。でもいつか、やり返しには行きますけど。
──向こうから来たのを迎え撃つのでは意味がない?
青木 それは意味がないですね。やってみて思ったのは、やっぱ、向こうでやって勝たないと意味ないなって。ムエタイと一緒っすよね。タイでタイ人に勝たないと意味がないっていう。
──前に「アメリカで勝つにはアメリカ人になるしかない」ということをおっしゃっていましたよね。
青木 そうですね、それはあるっすね。
──ということは、いつかアメリカに腰据えてやるというのもなくはない?
青木 ん~……すごくそこは難しいですね。僕自身、それは答えが出せないですね。ファザコンなんですよ。親のことが大好きなんすよ、僕。
──“親”というのは、自分を育ててくれた日本のスタッフ?
青木 ええ。なんでなんだろうなぁ? 気持ち悪いよなぁ、結構辛いことさせられてんだけどなぁ(苦笑)。なんなんだろ。こういうファイター珍しいっすよね?

■「好きだけど嫌い。好きだけど好きじゃない」

──青木選手がこれまでしんどい経験をしてきた一方、今回の相手、川尻選手もしんどい道を歩んできたと思うんですよ。
青木 そうですね。何て言うんだろうなぁ、愚直ですからね、愚直。ナイスガイ。
──まっすぐな男ですよね。
青木 まっすぐな男。いい男。あの男は好かれるんじゃないかな、いろんな人に。真っ直ぐだから。俺とはまた違いますからね。俺は好き勝手やって生きてきた人だから。
──前は「好きです」というふうに言っていましたけど、どういうところが好きなんですか?
青木 大好きなファイターでもあり、思い入れのあるファイターだけど、友達でもないし。好きだけど嫌い。好きだけど好きじゃない。
──好きだけど好きじゃない?
青木 兄弟同士って仲悪いじゃないですか? そういう感じですよね。「好きだけど……」みたいな。僕、五味選手も好きだし、石田選手も大好きなんですよ。同じPRIDEっていう、同じ親父から生まれたもんですからね。だから、五味選手も好きだし、川尻選手も好きだし、石田選手も好きだし。まあ、僕は末っ子なんで一番やりたいようにやらしてもらっていて、なんて言うのかな、マッハさん達が作ったものを、五味選手がこねて、僕が食う、みたいな(笑)。
──川尻選手が「男はそんな簡単に泣くな」って言ってましたが、それについてはどう思いますか?
青木 いや、全然何とも思わない。でも、可愛そうだよね、泣けない人って。僕、それ思うんすよね。ある種、泣けない人っていうのは、開き直れないわけじゃないですか。だって、ある意味、泣いちゃったらもう誰も何も言ないですからね。まあ、単純に羨ましいんだと思いますよ。可愛そうに(笑)。
──DREAMが始まってこの2年間というのは、PRIDEと比較されつつ、青木真也、川尻達也が主役になるためにもがき苦しんだ2年間だったと思うんですね。そこで今回、2人で試合をやることで一旦、ケジメをつけるというか、ケリをつけるというか、そのような感じに受け取れるのですが。
青木 それは違うなぁ。それは違うっすよ。僕たちは一生言われ続けますよ、PRIDEっていうものを。一生言われ続ける。あのときはって言われ続けるし、一生五味隆典と比較され続けると思うんですけど、でも全然いいんですよ。僕は僕だし。
──今大会のキャッチコピーが「もう一度、日本が夢を見られるそんな戦いをしようじゃないか」と。
青木 もう一度、夢を見られる……伝わらないでしょ、普通の人に。
──ですかねぇ?
青木 だって、これは壮大なストーリーなんだもん。(PRIDE)武士道からの壮大なストーリーですから、伝わらないですよ。僕が思うのは、結局、格闘技が好きな時点でインディーなんですよね。マイナーなんですよ、格闘技を好きで見てる時点で。もっと言うと、こんなマイナーなカードを喜んでくれる人たちというのは、間違いなくコアな人たちなんですよね。それで、これからの日本のMMAというのはマイナーの集合体になると思っていて、ていうことは、爆発しないっていうことなんですよ。何十パーセントの視聴率とか、そんなイベントはもうないし。マイナーの集合体になるその幕開けとして、格闘技を好きで見てるコアな人たちが夢を見られるカードだと思います。言葉の伝わり方がすごく難しいと思うんですけど、ある種、メジャーなんだけどメジャーの終了であり、新しい夜明けのスタートみたいな感じなんじゃないかなって。僕はそう思っているんですけどね、はい。

【『DREAM.15』対戦カード】
■DREAMライト級タイトルマッチ
青木真也(王者/日本/パラエストラ東京)vs川尻達也(挑戦者/日本/T-BLOOD)
■ライトヘビー級王座挑戦者決定戦
メルヴィン・マヌーフ(オランダ/ショー・タイム)vs水野竜也(日本/U-FILE CAMP.com)
■ライトヘビー級王座挑戦者決定戦
ゲガール・ムサシ(オランダ/チーム・ムサシ/レッドデビル・インターナショナル)vsジェイク・オブライエン(アメリカ/インテグレイテッド・ファイティング・アカデミー)
■ミドル級ワンマッチ
中村和裕(日本/吉田道場)vsカール・アモーゾ(フランス/チーム・アモーゾ)
■ライト級ワンマッチ
J.Z.カルバン(ブラジル/アメリカン・トップチーム)vs菊野克紀(日本/ALLIANCE)
■フェザー級ワンマッチ
小見川道大(日本/吉田道場)vsジョン・ヨンサム(韓国/CMA KOREA/冠岳BJJ所属)
■フェザー級ワンマッチ
石田光洋(日本/T-BLOOD)vsDJ.taiki(日本/フリー)