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2011年10月29日

「今の日本の格闘技界の状況の中で自分は何ができるか?」
川尻達也インタビュー

FIGHT FOR JAPAN『DREAM.17』で行われたDREAMフェザー級ワンマッチでヨアキム・ハンセンを破った川尻達也にインタビュー。初のフェザー級戦となったハンセン戦、気になる次戦、そして出場となれば6年連続となる大晦日大会への思いを語ってもらった。

■「フェザーに落としてネガティブな要素はまったく見当たらない」

──今回からフェザー級での試合だったわけですけど、これまでの試合後と何か変わったところはありますか?
川尻 食への欲求が凄まじいんですよ。石田(光洋)君がフェザーに落としたときに「すごい食への欲求で、ライトのときよりも体重が増えた」って言っていたんですけど、自分もそうでした。胃も拡がっているから昨日もステーキ500gとライス2杯とか食っても全然足りないくらいで。
──試合を終えて10日ほど経ちましたけど、現在の体重はどのくらいですか?
川尻 今日は起きて74.5kgくらいでした。普段から74〜75kgをキープしていこうと思っていて、試合から10日以上経った今は問題ないんですけど、試合の2日後の(9月)26日は78.6kgもありましたからね(笑)。9月24日に試合をして、2日後の26日の夜は78.6kg。でも、暴飲暴食したのはその3日間だけで、そこからは好きなモノを食べつつも食べ過ぎないように抑えて、みたいなかんじです。
──ちなみに、試合当日は何kgだったんですか?
川尻 試合のときは、その日の朝に測った体重で73.5kgですね。前日の計量のときから8.5kg増。それで試合の翌々日には計量のときと比べて14kg近く違うわけですから、ほんと目を疑いましたよ(笑)。
──食欲が凄まじいというのはやはり……。
川尻 ストレスですよね、完全に。2ヵ月間、節制して抑えてきたストレス。しかもその間、水ダイエットで水分は一日8L採っていたから、胃は水分で膨らんでいたので、小さくなっていないんですよ。水ダイエットは代謝を上げるためにやるんですけど、結果的に胃の大きさはずっと同じままだから、試合が終わって食おうとしたらドンドン胃の中に入っていっちゃうんですよね。胃が小さくなっていれば「もう食えねぇ…」ってなると思うんですけど、まったくそんな気配はなかったからもう大変。減量した後に食べ過ぎるっていうのは内臓を痛めつけているわけですから、試合後もちゃんとケアして、しっかりした食事を採って、体重をキープするのが普通なんですけど、ストレスでそれどころじゃないんですよね。試合前はそうしようと思っていたんですけど、ストレスでその3日間は我慢できなかったです。

──計量のときはすごくリラックスした表情をされていましたよね。
川尻 あっ、計量は今までで一番楽でした。ライトのときはもう慣れすぎちゃっていて、減量の最後の“水抜き”のときも「なんとかなる」と思っていて結局、最後に苦しい思いをしていたんですね。でも、今回はそういった妥協はまったくなくて、ちゃんと計画的に落としたから最後は楽だったし、計量前にアイスを2個も食えましたからね。アイスは計量の前日と計量当日で合わせて計6個も食べましたよ。
──6個も!
川尻 これまで年間にアイス6個も食わなかったんですけどね(笑)。でも、水分だとすぐ終わっちゃうじゃないですか。アイスだとゆっくり溶けるし、冷たいし、のどの渇きも癒せるので。
──じっくり堪能できると。そして試合を迎え、フェザー級初戦を見事な一本勝ちで飾りました。周囲の反応はどうでしたか?
川尻 仲間たちは、自分がフェザーに落としていく中でいい感じに仕上がっていくのも見てきていたから、驚いた様子はなかったです。いつも通り「おめでとう」みたいな感じでしたね。
──今回の川尻選手はいつにも増してプレッシャーが大きかったんじゃないかと思うんです。
川尻 そうですね。勝つにしろヘタな試合をしたら「川尻はフェザー級に合っていない」「川尻の階級転向は失敗だ」って自分の価値が下がるのは分かりきっていることでしたからね。「ここは何が何でも圧勝しなければいけない」というプレッシャーはありました。しかも、前回の試合(『DREAM JAPAN GP FINAL』ドリュー・フィケット戦)と比べても相手は強いし、相当プレッシャーはありましたけど、練習の時点で自分の変化を実感していたので、「普通にやれば勝てるだろうな」という自信もあったんです。でも、「勝ちたい」という欲を持ち過ぎちゃうと力んでうまくリング上で動けないと思ったので、とにかく練習してきたことをリング上で全部出せば絶対に勝てると思っていたから、そのことだけを意識して。……まあ、これは『バガボンド』を読んで学んだことなんですけどね(笑)。「勝ちたいという欲は力みしか生まない」と。今までは随分力んでいたから、「リングの上で自分の持っているものを全部出す」ということだけをリングに上がる直前まで思って、とにかく力まないことを意識しました。
──「自分の変化を実感していた」というのは、試合前の公開練習でもおっしゃっていましたよね。その変化した部分というのは具体的にどういったところなのでしょうか?
川尻 もう全部違いましたね。スピードも違うし、体重が落ちたからといって今までスパーした人とやっても全然力負けしなかったし。ミット打ちやスパーをやっても、7月の試合前のときと今回のヨアキム戦前とで、笑っちゃうくらい全然違うんですよね、スピードが。そういう意味では「これが試合で出せたらすげえ面白いことになるだろうな」という楽しみもありました。フェザーに落として余計なオモリもなくなって、スタミナもアップしているなと感じるし。あと、自分をキツイ状況に追い込んでいる分、より集中して試合に向けての準備ができたんですよ。そういった発見があったのも、自分にとってはよかったと思います。だからネガティブな要素はまったく見当たらないんですよね。逆に、今までどんだけ無理していたのかなって思いますよね。ライトで闘うこと自体が無理だったとかじゃなくて、無理して筋肉付けてデカくなろうとしていて、それが長所であったのかもしれないけど、失っていたものも大きかったんだなと。「今までよくこんな重いのを付けて闘っていたな」って感じで。ライトのときも、もうちょっと抑えていたほうがスタミナももったと思うし、かといってパワーも落ちているわけでもないので。ライトのときはそれが自分に一番合っていたと思っていたから分からなかったんですけどね。これはやってみなければ分からないところだったと思います。
──試合当日は73.5kgだったということですが、そのへんの体重が一番動きやすいんですか?
川尻 そうですね。自分は一番動ける体重が73〜74kgだと思うので、そのへんで調整しようと思って、その体重での練習期間を長めにしたし、その体重でスパーもガンガンにやって準備はしていて、それで当日が73.5だからほんとバッチリでした。
──闘ってみたハンセン選手の印象はどうでしたか?
川尻 やっぱり強かったですよね。足がすごく効いたし、気持ちも強いし、最初のヒザも効いたし。
──最初のヒザというのは1R序盤のシーンですね。
川尻 僕がちょっとよろめいたときに来た飛びヒザが思いっ切りミゾに入って、超効いて、苦しくて泣きそうでしたからね、実は(苦笑)。もう必死でしたよ、(効いているのを)見せないように。もうほんと内臓破裂したんじゃないかなと思うくらいで、その後、四つとかでコツコツ蹴られているのもすげえ痛くて、四つで組みたくないと思いましたもん。試合の翌日の一夜明け会見のときもまだ痛くて、「これ、大丈夫かな……?」って思っていたくらいですからね。強いっすよ、ほんと。
──それでも全体を通して完勝だったように思うのでうが、ご自身の実感としてはどうでしょう?
川尻 そうですね。ほぼ完封でしたね。でも、それが最低条件だと思っていたんです。これが判定だったり接戦だったらインパクトは弱いですからね。せっかくフェザーに落としたのに、「なんか落としてもあんま変わんないね」みたいな。だから、格の差を見せつけないと意味がないと思っていたんです。まあでも、自分の中ではとりあえず落第点ではなかったというか、特別、褒められた感じではないかなと。これでようやくスタートラインに立ったという感じで。もちろん勝ったことは嬉しいですけどね。
──一夜明け会見では「言葉でどう説明したらいいか分からないですけど、まだ改善の余地がある」ということをおっしゃっていましたよね。
川尻 1Rにアームロックに行ったときに返されて、普段だったら返されないようなところで返されたので、まだしっくりこう、抑え込むにしてもまだしっくりいっていない部分があるのかなという。そこらへんはこれから改善できるところだと思います。

■「人生を懸けた勝負というのをファンに提供していかなければいけない」

──試合後も饒舌でした(笑)。
川尻 そうっすか?(笑)。
──リオン選手の「次は川尻選手とやったら面白いかな?」という発言に対して、「誰でもかかってこい、この野郎!」と。
川尻 だって、ああ言われたら……ねえ?(笑)。受けてもいいけど僕が決めることではないし、それで「やろうぜ!」って言って決定的な感じになっちゃったらプロモーターに悪いじゃないですか。僕とリオン選手が決まっちゃったら、他は高谷さんと宮田さんしかいないわけですからね。
──高谷vs宮田は7月の『DREAM JAPAN GP FINAL』でやっていますもんね。
川尻 ですよね。だから「それはどうかな?」って。日本人同士が潰しあうしかない今の状況を考えたときに、残っているのはその4人だと思うし。だから、本当に相手は誰でもいいんですけど、別にここで挑戦を受ける必要はないなと思って。
──確かに組み合わせ的には、高谷vs宮田は7月に行われて、宮田vsリオンも去年の9月に実現しています。
川尻 となると、僕と宮田さんがやるのが一番面白いんじゃないですかね? それで勝った者同士がやればいいんじゃないかと。
──ともあれ川尻選手がこれから当たる選手を考えると、高谷選手、宮田選手、リオン選手の3人にしぼられると思います。
川尻 でしょうね。
──3選手それぞれの印象を聞かせてください。
川尻 高谷さんとリオン選手はストライカー。打撃が主体ですよね。というか「打撃だけ」という言い方もできると思うんですよ、気をつけるのは。宮田さんはトータル的になんでもできる。みんなが期待していることで、イメージとしては「ジャーマン」。
──ちなみに、『DREAM.17』で行われたフェザー級ワンマッチ、宇野vsリオンはどう見られましたか?
川尻 やっぱり(リオンは)強いな、という。もちろん「もし僕がリオンとやったら……」と考えたところはありましたよ。ここでは言えないですけどね。
──それにしても川尻選手は、去年の7月から激動ですよね。去年の7月に青木選手とのタイトルマッチがあって、大晦日のジョシュ・トムソン戦で復活して、今年の4月は初のアメリカでメレンデス選手と闘って、そして今回、階級まで変えたわけですから。
川尻 そうですね。2008年はエディ(・アルバレス)とやったり、いきなりK-1ルールの試合(武田幸三戦)に出させられたり、2009年は魔裟斗戦があったりと、毎年そう言われるんですけど、確かにこの一年は特に激動な感じはしますね。まあでも、おかげで暇しないでいいですし、観る側もそのほうが面白いんじゃないですか?(笑)。
──はい(笑)。
川尻 そういう大きな試合が続いたおかげで、テンションのアップダウンはなくなりましたね。昔は、試合前はガッと入れ込んでやるけど、試合後はだらけたりしていたんです。そのときはそうやって気持ちのメリハリをうまくつけているつもりでしたけど、今はそのだらける一日が非常にもったいないというか、一日一日を大切に過ごすようになって、テンションの変動はなくなった感じなんですよ。テンションを高いところでキープしつつ、試合のときにさらにグッと上げられるようになった感じはしますね。三十を過ぎて。
──それは経験によるものなのでしょうか?
川尻 経験もあると思いますけど、それ以上に意識の差でしょうね、きっと。これは本人にも言ったんですけど、青木真也とかはそれを若い内からできているわけですから。普段から節制したり、コンディションを整えたりとか。それを若いときからできるヤツが超一流の選手だと思うし。僕は三十になってから気づけたけど、まあでも気づけてよかったかなと思います。
──次は大晦日になるでしょうね。
川尻 もちろん出るつもりですよ。
──出場となれば6年連続の出場となりますが、やはり大晦日で闘うというのは……。
川尻 何年経っても特別ですよ、ファイターにとっては、うん。それはみんなそうなんじゃないですかね? 誰もが出られるわけではないですから。だいぶメジャーに出る敷居が低くなっているけど、大晦日だけは格闘家にとって特別な日であるべきだと思うし、誰でも出られるような舞台であってはいけないと思うんですよね。DREAMや、SRCとかを見ていても、昔だったらいわゆるメジャーイベントに出られるレベルじゃない選手も出ているわけじゃないですか、正直。それは日本の格闘技界が今こういう状況だからしょうがないのかもしれないですけど、やっぱり大晦日くらいは特別感が必要だと思うし、だからこそ大晦日のリングは光り輝くと思うんですよ。努力して、結果を出してきた一握りの人が出られるから、みんながそこに憧れるわけで、大した実績も残せていない選手が出ていたら特別感はないじゃないですか。DREAMで結果を残してきた選手だけが、一年の最後の日に試合ができる。その最後の日にいい結果を出す喜びというのも、選ばれた人だけの特権ですからね。
──大晦日の試合、楽しみにしています。最後に今後に向けての抱負を聞かせてください。
川尻 今の日本の格闘技界は、選手もそうですけど、スタッフもみんな踏ん張っているところですからね。そういった状況の中で自分は何ができるかって言ったら、お客さんにいい試合を見せることしかないと思うんですよ。僕たちはお客さんのチケット代やPPV代などで生活しているわけだから、一番大切にしなきゃいけないのはお客さんを満足させること。そのためにはこの前の試合や前回の試合でも分かるんですけど、やっぱりKOや一本で勝たないと満足してもらえないんですよね。まだまだ自分はそういうファイターになれていないけど、それを毎回期待してもらえるファイターになれるようにコツコツやっていくしかないです。そのコツコツが遠回りかもしれないけど、意外と近道だったりすると思うんです。あと、やはり勝負事というのは厳しくて、毎試合毎試合、楽な試合なんてないですけど、今の日本の状況を考えたら難しいのかもしれないですけど、負けているけどメレンデス戦だったり、青木戦だったり、魔裟斗戦だったりという、そういう人生を懸けた勝負というのを一年に一回でも、二年に一回でもいいから、ファンに提供していかなければいけないと思うんですよね。ファンもどっぷり感情移入できる試合というか。UFCの一人勝ちの中で厳しいのは分かっているから毎試合は難しいかもしれないですけど、「DREAMを盛り上げるにはどうすればいいんだろうな?」と考えたとき、ただ「フェザー級で頑張ります」じゃなくて、そういう勝負をやらないといけないし、やっていきたいなって思いました。そのためには一線で結果を出し続けていって、そういった勝負を、ファンから期待されて、主催者から任せられる存在でい続けなければいけないですからね。ただの格闘家ではいたくないですから、はい。