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2010年7月27日

「生き残ったって感じが強い。すぐ次に行きたいです」
青木真也インタビュー

7・10『DREAM.15』(さいたまスーパーアリーナ)で行われたDREAMライト級タイトルマッチで挑戦者・川尻達也を破り、見事初防衛に成功した青木真也にインタビュー。「追い詰められていた」と語る川尻戦、今後についても語ってもらった。【取材日:2010年7月11日】

■「発想的には多分、僕と菊野選手って近いと思うんですよ」

──昨日は見事な一本勝ちでした。DREAMライト級王座初防衛に成功したわけですけど、タイトルを守ったということについてはどう感じていますか?
青木 それはあまり気にしてなかったんですよね、実は。連敗したくないし、川尻選手に負けたくない。単純に負けたくないって気持ちですよね。こんなこと言うと怒られちゃうんですけど、正直、ベルトに対するこだわりというのはあまりなくて、自分がチャンピオンであるというこだわりもあまりないんですよ。ただ負けたくない。そういう意味で久しぶりにヒリヒリしたというか、追い詰められた試合でした。4月の負けってそんだけデカかったんだと思います。変な話、全員敵でしたから。オープニングのときに全員敵だと思いましたから、お客さんが。全員、川尻選手のお客さんなんだなと思って。それくらい追い詰められるというか、内にこもるというか。これだけやってきてもそういう状況ってなかなかなかったですね。
──フィニッシュはアキレス腱固めだったわけですけど、足を取るの速かったですね。
青木 たまたまです、あれは。作戦とかはあまり決めてなくて、パッと動いたら体が勝手に動いているような感じ、よく僕らが言う“オートモード”だったんですけど、最後は我慢されちゃったんで難しかったですね。
──そのくらい手応えがあったと。
青木 足がバリバリ鳴ってるんですけど、関節が壊れているんだけど、我慢されている状態になって、「こっからまた作り直してひねるの大変だな」と思って、結果的に作り直して参った取れたんですけど、末端の関節なんでなかなかやっぱり難しいんですよね。極端な話、末端の部分はちぎられたとしてもないものと思えちゃうんですよ。例えば、首とか腰の骨が折れたら動けないですよね?
──動けないです。
青木 でも、ヒジとか足首とかだとなんとかなっちゃうんですよね。足の末端で言えば、我慢すれば片足でもなんとかなっちゃったりもするんで、そこは難しいんです。もう片方の足も取ってその足も潰せば歩けなくなるかなっていうのも考えたんですけど、なかなかそこまでの余裕はなかったですからね。僕の技術がもうちょっと高かったらとも思うんですけど、今回は足を抱えるアキレスだったんですけど、抱えてそこからひねる関節に変えたりすることも選択肢にはあって、でも、なかなかやっぱり得意じゃないと極められないというか、あれが僕じゃなくて今成(正和)とかだったらすぐ極めたと思うんですけどね。そういう意味では、今成とかとずっと練習してもらって教えてもらってきてよかったなと思いました。こんなところで助けられるんだなって思いましたね。
──私たち観る側からすると、青木選手の足関節技というのはすごいという……。
青木 (遮るように)いやいやいや! 桜庭さんの関節技というのもまた違うんですけど、なんて言うんだろうなぁ……関節技というのは、例えば、お医者さんと一言で言っても、呼吸器の専門とか心臓の専門とか、それぞれの専門分野の人がいるじゃないですか。
──いますね。
青木 関節技も、関節技という大まかなところからいろいろと細分化しているんです。で、今回で言うと、僕は足のスペシャリストではないので難しいんですよね。それに僕の技術自体、まだまだ粗いですから。
──えっ、粗いんですか!?
青木 まだまだ粗いですよ。完成はしてないですよね。「取らなきゃ! 取らなきゃ!」って感じで落ち着けてないし、しっかり捌くというのがない。で、発想的には多分、僕と菊野(克紀)選手って近いと思うんですよ。
──ほう!
青木 相手に何もさせずに自分の武器で斬り落とすというか、「力を使わずに」って言うとなんか達人みたく思われるんですけど、最小の力で相手を仕留めるというか、そういうところの考え方は近いと思うんです。やってる方法は違うんですけどね。そういう意味では、まだまだ練るところがあると感じています。
──まだまだ追求の余地があると。
青木 本当に奥深いと思います。しかも、練って練って、さらに練っていくと途中で深みにはまることもあるというか、練るからこそ調子が悪くなることもあるんですよね。そこがまた難しいとこで、(J.Z.)カルバンは完全にその状態だったと思うし、格闘技って難しいなって思います。でも、面白い。例えば、ボクシングは手だけじゃないですか。それだけでも奥が深いのに、MMAはいろいろありますからね。レスリングもあって打撃もあって寝技もあって、すべて混ぜたものもあるから、ほんと奥が深いですよ。いつになったら終わるのかなって思いますからね(苦笑)。でも、段々……段々とですけど、自分の理想としているところに近づいてはいるので、いろいろ試行錯誤していい形にしていきたいなと思います。
──青木選手が理想としている形とは?
青木 すべての選択肢で勝負できるのが理想ですよね。打撃でも間合いをコントロールして相手をいなすことができて、なおかつちゃんと組めて倒せる。自分の危ない場所が一切ない状況で相手に勝つというのが理想ですよね。一番良くないのは、試合って結局そうなるんですけど、大きなピンチと大きなチャンスがあるみたいな。大味のゲームは観ているほうは面白いんですけど、そうなると自分の格闘技の質が低くなってくるんですよね。理想は最小のピンチと最大のチャンス。でも、そうなると普通の一般の人に届くかどうかという問題も出てくる。バコーンって殴られてその後にグァ〜って極めたほうが一般の人は「うわっ、すごい!」って思うと思うんですけど、パッと組んで倒して抑えるっていうすごさはなかなか伝わらないですからね。難しいです。究極を目指すんだけど、究極になりすぎてしまうとまためんどくさいという。
──でも、青木選手としては、自分の信じる道を突き進む。
青木 そうですね。周りの声を気にしすぎてしまうと、MMAという競技自体、選択肢が多いので、話にならなくなっちゃうんですよね。例えば、こっちの人は「蹴ったほうがいい」と言ったり、またこっちの人は「パンチのほうがいい」って言ったら、「一体、俺は何すればいいんだ!?」って分からなくなっちゃう。
──頭の中がパニックになっちゃうと。
青木 そうそう。だから、僕は自分が信じる宗教というか、僕は敢えて“宗教”という言い方をしているんですけど、自分の信じている宗教を貫いたほうがいいと思うんです。“宗教”と定義するならば、すべてが正解なので、その中で自分が信じたものを貫けばいいんじゃないかと思いますね。

■「ゲガール・ムサシみたくなりたいです」

──昨日の一戦は青木選手の中でも一つの区切りという意識はあるんですか?
青木 そうですね。僕の中でずっとつっかかっていたものでしたからね。やんなきゃいけないものだったんですけど、タイミングがズレたりとかいろいろあったので、スッキリはしました。でも、一つ残念なのは、菊野選手に勝ってほしかった。菊野選手が勝ってくれたら今後のストーリーができましたからね。菊野選手が勝ってくれたら、むしろ9月にでもやりたかったし。それは単純に菊野克紀ってファイターが魅力的だし、ストーリーとしても魅力的だったので。
──ファイター・菊野克紀の魅力というのは?
青木 さっき言った試合に臨む発想というのも近いと思うし、あと、彼って今のファイターの中で幻想があるファイターだと思うんですよね。それは“空手”だったり“蹴り”だったりの幻想なんですけど、その幻想と僕のサブミッションの幻想がぶつかったらどうなるのか。彼が僕とやりたいと言うように、僕としても魅力があります。だからこそ彼にはカルバンをパッと斬り落としてほしかった。でも、何年かぶりに勝ったカルバンを見ると、「あぁ、苦労して勝ったんだな。よかったなぁ」って思っちゃって、「俺、どっちにも勝ってほしかったんだなぁ……」と思ったり複雑でした。
──青木選手は試合前、結構他の試合を見ていますよね。
青木 他の試合見ているとリラックスできるんですよね。「やっぱり石田さんいいなぁ」とか思ったり。そうそう、昨日のベストバウトは僕は石田選手にあげたいですね。石田さんは去年2連敗して苦しい中フェザーに落として、すごく一生懸命やっててすごく強いのに、でも勝っても真っ当にちゃんとした評価をされなかったりしているのを見て、それで昨日勝った姿を見ると「あぁ、よかったなぁ」って思いますよ、やっぱり。昨日は、石田さんの勝ちが嬉しくて、カルバンの勝ちが嬉しくて、菊野選手の負けが残念という。最後の2つは矛盾しているんですけど(笑)、昨日はそんな感情でしたね。
──水野選手の試合はいかがでしたか?
青木 すごいなって思いましたよね、やっぱり。ちょっとあれは感動しましたよ。第一、メルヴィンと対面した時点ですごいじゃないですか。
──向かい合うだけでですか?
青木 いや、だって無理でしょ!? 普通の日本の家庭に育てられた日本人の精神状態だったら無理ですよ。あんなマッチョでヒラヒラしたコスチューム着て、ピョンピョン飛びながらオラオラな感じで入場してくるんですよ? そんなのと闘うんですよ? 無理でしょ。
──おっしゃるとおりです。
青木 それも、今までの選手だったらバンバンってパンチまとめられたら“嫌倒れ”みたいになっちゃう傾向がありましたけど、水野選手は倒されてもグッて堪えて頑張って、勝ち負け以上にあの根性がすごいなって思いましたね。さっきも言いましたけど、大きなピンチと大きなチャンスがあるっていうのがいいかどうかは別として、それを超越してすごいですよ、あれは。本当にいい試合だった!
──絶賛ですね。ちょっと話が逸れてしまったんですけど、今回の川尻戦もそうでしたけど、青木選手はここ最近、ずっと大変な精神状態に追いやられる試合が続いていると思うんですけど、その点についてはどう感じているんですか?
青木 大変な精神状態……最近、そうですよね。でも実際、解放されたら解放されたでつまんないのかもしれないですからね。じゃあ、半年とか(試合間隔が)空くのは無理だなって思うし。
──今後もこれまで通りのスタンスを緩める気はないと。
青木 それはまったくないですね。今回は今回で生き残ったって感じが強いんですけど、怪我なくてよかったなって感じなので、すぐ次に行きたいです。もう、4月で分かったんですよ。じゃあ、負けたら楽になるかっていったら、負けてもしんどいんです。勝ってもしんどいんです。そこでしんどくなくなるってことは負けてもいい、落ちてもいいってことですからね。だから、ファイターである以上、特に一線でやっている以上、「負けたらどうしよう?」「負けたら俺、終わっちゃうんじゃないか?」というのを感じていくんだと思います。だから僕、ゲガール(・ムサシ)みたくなりたいですですよね。達観しているというか、何かを悟っているというか、ああなってみたいです。あれだけ起伏がなくて、あれだけなんでもできて、あれだけ強い。いい意味で淡々としているんですよね。25なんで僕の2つ下なんですけど、すごく落ち着いている。ミルコ・クロコップのいいときに近いというか、(エメリヤーエンコ・)ヒョードルに近いと思います、彼は。今回、減量に失敗しましたけど相手のジェイク・オブライエンは弱い選手じゃないですからね。連れられてきた金魚みたいに見られていましたけど、そんなことないですから。その相手にあれですからね。ゲガール・ムサシはすごいと思います。あんな感じになってみたいですね、はい。