ホーム>

ニュース


2009年7月11日

“世界のTK”高阪剛氏がウェルター級GP&ワンマッチの見どころを徹底解説!!
TK式『DREAM.10』短期集中講座【前編】

7・20『HEIWA DREAM.10 ウェルター級グランプリ2009決勝戦』(さいたまスーパーアリーナ)で行われるウェルター級GP決勝ラウンド、そして注目のワンマッチ3試合の見どころを、TBS&スカパー!DREAM中継の解説でお馴染み、“世界のTK”こと高阪剛氏が徹底解説!! 前編となる今回は、ウェルター級GP決勝ラウンドのポイントについての講習だ。TK式夏期講習! これを読めば、『DREAM.10』が100倍面白くなること間違いなし!!

■ウェルター級GP準決勝:アンドレ・ガウヴァオンvsジェイソン・ハイ

☆Check Point①:「ウェルター級とは?」

まず最初に話しておきたいのが、ウェルター級(DREAMウェルター級=76キロ以下)というのは、85キロとかから体重を落としてきて、ヘタしたら90キロ近いところから体重を落としてくる選手もいるということ。つまり、ミドル級(DREAMミドル級=84キロ以下)並のパワーを持つ選手が結構いる。かと思えば、ライト級(DREAMライト級=70キロ以下)並のスピードを生かし、テクニックで勝負する選手もいるんです。パワーとテクニックの比重はファイターによってまちまちで、それがつまりウェルター級ファイターの個性となります。これからこの講習を進める上で、これを前提として頭に入れておいてください。また、体の中にパワーとテクニックが混在しているということで、試合の中でその配分を変えることによって、それがフェイントになったりもします。ライト級ファイターのような素早い動きからのテクニックを見ることもできますし、ミドル級ファイターのようなパワフルな打撃も見られる。ウェルター級とは非常に魅力的な階級なんです。

☆Check Point②:「テクニックのガウヴァオン」

さて、ガウヴァオンはどうか? 見た目、凄い怪力の持ち主っぽい立ち振る舞いをしているんですけど、どちらかというと、力を抜いて動いて相手を翻弄し、スピード&テクニックを使って試合を進ませる、テクニック型のファイターだと思います。もちろんウェルター級の選手なのでパワーもあります。要はややテクニックに比重が偏りつつも、パワーもあるタイプ。特に柔術家だと、それが如実に表れます。例えば、グラウンドで上のポジションを取ったときにガチッと固めて相手の動きを止め、自分の攻撃しやすいポジションをキープし続ける、“パワー”を活かした寝技ができる。と同時に、相手の動きを予測し、先回りして極めることもできる。後者は、桜庭(和志)さんみたいなタイプですよね。そういう“テクニック”を活かした寝技もできるんです。その両方をできるのがガウヴァオンだと思います。

一回戦のジョン・アレッシオ戦では、アレッシオの“パワー”に対して、ガウヴァオンも序盤は“パワー”で対抗しました。パワーに対しては、動きを使ったり、力の出し加減を変えたり、相手との駆け引きが大事になってくるんですが、アレッシオとの試合ではガウヴァオンはパワーで対抗してしまい、なかなか自分の闘いができなかった。でも、ガウヴァオンは途中で「このままではいけない」と、動きを使うように修正したと思うんですね。総合を始めてまだ3戦目にも関わらず、試合中の短い時間で修正できる、アジャスト(調整)する能力があるというのは凄いことです。この3ヵ月の間で急成長している恐れは大いにありますね。

☆Check Point③:「パワーのハイ」

ジェイソン・ハイに関しては、これはもうパワー型のファイターですね。ただ、他のジェイソン・ハイの試合映像も見たんですけど、パワーだけでなく、そのパワーに自分の持っているテクニックをうまく混ぜることができるようになってきていると感じました。それは、一回戦の白井(祐矢)との試合からも窺い知ることができます。パンチが入って白井がグラついたとき、“混ぜる”のを意識してない選手だったら、あそこは力任せにパウンドで仕留めようとしたと思います。ですが、フィニッシュはスリーパーでした。まあ、あのスリーパーは片手で首を絞めていたので、あれは“力絞め”なんですが、パワーとテクニックをうまく使いこなしていこうとしている姿勢が垣間見えました。“パワー”で圧力を掛け、最後は“テクニック”で仕留める。冒頭に言った通り、“パワー”と“テクニック”の混在するウェルター級という階級の面白さ、そして怖さの両方が見える試合だったと思いますね。

☆Check Point④:「アジャストする能力」

“パワー対パワー”となっても試合は動くと思うんですけど、その代わりいつまで経っても両者とも決め手に欠き、体力を消耗するだけでしょう。もちろん、タイミングでパンチが入ったりとか、そういうことで終わる可能性もありますが。ただ、先程も言ったように、ガウヴァオンは、相手の力に対する対処の仕方とか勝つための試合の作り方、要するに今ある状況に対して“パワー”で行ったほうがいいのか、それとも“テクニック”で行ったほうがいいのか、それをアジャストする能力を掴みかけている。で、実はジェイソン・ハイからもそれを掴みかけている気配を感じるのです。そのへんの主導権の握りあいが、勝負のポイント! ただ、ジェイソン・ハイのほうは何か事態が起こってからアジャストしますが、ガウヴァオンのほうは先を読んでアジャストすることもできると思います。果たして、どんな試合になるでしょうか? 注目しましょう!

■ウェルター級GP準決勝:桜井“マッハ”速人vsマリウス・ザロムスキー

☆Check Point①:「マッハのコンディション」

マッハはこれまで総合だけで40戦以上の試合経験を積んできているんですけど、試合数以上に、こなしてきた練習の量や質の蓄積が相当あります。だからもう、ハッキリ言って、今から新しい技術や動きを取り入れるというよりも、身体が記憶しているものを試合当日に100%出せるかというのがポイントだと思うのです。100%出せるかどうかは、しっかり体を作ってくることももちろんなんですけど、それ以上に気持ち。心によるところが大きい。いかに一番高いモチベーションの状態で試合に臨めるか? 4月の青木(真也)との試合が終わった5日後くらいに、マッハとは住んでいる方向が一緒なので帰りの電車でバッタリ会ったんですけども、そのときに「それに尽きるね」という話をしました。体作りはもちろん、気持ちの部分もしっかり作れて、ベストコンディションと言えるんですね。

気持ちを作る上で重要なのは、これはもう経験しかないです。例えば、試合が決まって、試合まで1ヵ月半あるとしたら、それまでの時間の使い方というのは経験でしか身に付かないもの。最初から「よし、やるぞ!」と気合い入れて突っ走ったら後半持たなくなって、気持ちも体も試合当日にピークに持って行けません。当然、マッハはそのへんのことは分かっているし、ハッキリ言って頭で考えるタイプではないので、体がそういうことを全部熟知していると思います。気持ちも体もベストな状態で臨めるか? マッハはそのことしか考えていないと思います。

☆Check Point②:「ザロムスキーの打撃」

ザロムスキーは、ヨーロッパとかに多いんですけど、総合で勝つ打撃を使ってくる選手ですね。まず、あのバク宙を見ても分かる通り、身体能力が高い。自分の体の使い方を分かっているというか、体のどの部分をどのように使ったらパワフル且つ速い動きができるのかということを理解して動いているという気がします。スタミナも凄いですよね。傍目から見ると力を入れっぱなしで、「なんで疲れないんだ?」と見えると思うんですけど、自分の体をどのように使えば楽に動けるかを知っていると思うんですよね。だから、倒す打撃を無理なく何度も繰り出すことができるんじゃないかと思います。ただ、まだ1試合しか見ていないのでなんとも言えない部分があります。次のマッハ戦でザロムスキーの真価が見られることになるでしょう。

☆Check Point③:「マッハのローキック」

マッハとザロムスキーを比較すると、技や動きの引き出しの数は、マッハのほうが多いはず。フックからローを落としておいて、そのフックを多めにする、ローを多めにするとか、そのへんの比重を巧く使って、最終的に右ストレートとか首相撲からのヒザ蹴りとか、そのような“倒す”打撃で仕留める……というのがマッハの闘い方になるんじゃないでしょうか。

勝負のポイントは、マッハのローキックだと私は思います。一回戦の池本誠知戦を見る限り、ザロムスキーはディフェンスの緩いところが何ヵ所かあって、あまりローキックもカットしていなかった。多分、カットしないでそのまま打ちたいからだと思うんですけど、効かせる打撃を打てる選手にそれをやっちゃうと、特にマッハのローだったら3発モロに入ったら効いちゃいますからね。ローだけじゃなくボディブローだったりヒザ蹴りだったりで、意識を散らされる攻撃を受けたときにザロムスキーがどうでるか?

ただ、マッハ有利のような感じで話を進めましたが、例えば、マッハのローに合わせるタイミングでザロムスキーのパンチがドンピシャで当たればカウンターになります。選手の相性によって、バッチリのタイミングで合ってしまう場合があるんです。マッハとザロムスキーの相性はどうなのか? こればかりはやってみないと分かりません。

☆Check Point④:「マッハ優勝の確率」

マッハにとっては、準決勝の相手がザロムスキーだろうが、そして決勝の相手がガウヴァオンだろうがハイだろうが、相手は関係ないと思います。マッハくらい多くの試合をしていると、「こいつ、やりやすいな〜」と完全に思える相手とはもうやれていないはずですし、やりにくい相手だったとしても「こいつ、やだな〜」と思わないように体が反応して試合をしているので、誰と闘っても「やりやすい」と「やりにくい」の中間、曖昧なところにいる選手と闘っている感覚だと思います。ですから、相手がどうのこうのというよりも、さっきも言いましたけど、気持ちの部分も含め、いかに100%に近いコンディションで決勝ラウンドに臨めるかだと思います。先程も言いましたが、マッハ優勝のポイントは“調整”。調整がうまくいったならば、他の3選手に比べて、優勝する確率は一番高いと思いますし、ハッキリ言って、優勝できるでしょう。前回の青木戦のときのように、気持ちも体もバッチリ調整がうまくいっているときのマッハのことを“やれてるマッハ”と私は呼んでいるんですけど、“やれてるマッハ”で決勝ラウンドに臨めば優勝はほぼ間違いないと思います。